昨年に引き続き、生命保険業の構造が情報化によってどのように変容してきたかを、外交員などへの聞き取り調査や財務データを用いた計量分析などで行ってきた。生命保険業界には銀行業と違って大規模なネットワークの構築を行う会社があまりない。外交員が情報端末を用いて本社と情報を共有するシステムも会社間での格差が大きい。また、インターネットを用いた顧客サービスに関しても銀行業よりも大幅に遅れているといえる。しかし、ここ数年で多くの生命保険会社が、インターネット上で、生命保険契約内容照会、インターネットATM、カードローン、各種手続きができるようにしている。今までは、電話や外交員への連絡によってこれらの手続きにタイムラグが生じていた。今年度はこれらのサービスの変化がどのように顧客の満足度を高めているのか、聞き取り調査を行った。旧来の経営を続けている大手生保、中堅生保、破綻して外資系になった生保、もともと外資系の生保に分けて情報化への取り組みや費用構造の変化の分析を行っている。昨年に引き続き生命保険会社が発行しているアニュアルレポートに着目してデータ収集を行ってきた。そのレポートでは生命保険協会の決めた公表すべき情報化の項目の記述レベルが各社であまりにも差があることが判明している。そのため、任意に選び出した保険会社にその理由を質問した。情報化に関するデータが不足しているものについては、アンケートや聞き取り調査で継続的に補完中である。現段階の計量結果では、昔からの組織構造が続いている生命保険業者と組織がより柔軟な生命保険業者の間では生産・費用構造などに差が出ている。情報化は組織構造を柔軟化し、効率化を促進している可能性が考えられる。扱っている外貨建て年金保険商品などの性格から生命保険会社がこれからより情報化する必要があるのは確かである。これらの結果を計量分析で客観的に有意に確認することは重要である。生命保険業の効率性を計る指標のようなものまで研究成果が拡大できるのではないかと期待している。
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