研究概要 |
これまで産業組織論では研究開発の研究が数多くなされてきた。しかし,環境保全技術の共同研究開発については寡占モデルを用いた研究は少なく,知的財産権や競争政策の運用指針やその運用指針が環境投資に与えるインセンティブについての理論的・実証的分析について研究知見の集積が非常に薄い。そのため,その分析上の空白部分に研究知見を蓄積しつつ具体的な政策形成や制度設計に貢献する成果を提示することを目的とする。本年度は基礎研究の段階であるが,環境投資の先行研究についてサーベイを行うとともに,リサイクル費用低減のためのグリーンデザイン投資に着目し,独占禁止法においてガイドラインが拡充されつつあるリサイクルの共同事業化の是非について社会厚生の観点から分析を行った。今年度の研究では,リサイクルの義務とリサイクル率規制が課せられた複占市場において投資競争を行うとともに財市場でもクールノー競争に従事する2企業の戦略的相互依存関係を2段階のゲームとしてモデル化した。そして,協力投資と非協力投資の双方の部分ゲーム完全ナッシュ均衡を導出し,比較を行った。得られた主要結果は次のとおりである。(1)グリーンデザイン投資のスピルオーバー効果が小さいならば,協力投資の方が投資水準も生産量も大きくなる。(2)協力投資の下での利潤の方が非協力投資のそれよりも常に大きい。(3)スピルオーバー効果が小さく,環境被害の程度が十分大きいならば協力投資の方が社会的に望ましい。また,スピルオーバー効果が大きく,環境被害の程度が十分小さいときにも協力投資の方が社会的に望ましい。逆に,スピルオーバー効果が小さく,環境被害の程度が十分小さいならば非協力投資の方が社会的に望ましい。さらに,スピルオーバー効果が大きく,環境被害の程度が十分大きいにも非協力投資の方が社会的に望ましい。
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