伝統的な貧困の研究は「静学的(static)」概念に基づくが、最近の研究は貧困の「動学的(dynamic)分析」の重要性を指摘している。貧困の動学に関する研究は、家計の平均的生活水準が貧困線を上回っていても、予期せぬ事後的な所得の低下に直面する、という点に注目する。例えば、そのようなリスクには、ハリケーンや台風、洪氷、火災や深刻な旱魃のような自然災害による家畜・作物の破壊、商店や工場の盗難、投入財の調達や製造業生産活動の計画遅延、世帯主とその家族の事故・病気や死亡、経済政策の失敗や政治動乱によるマクロショックなどがある。現在、事後的な(ex post)貧困状態に直面している家計は、リスク対処戦略(risk coping strategies)、つまり所得変動を所与のものとして、消費変動を削減し貧困状態の発生を「事後的」に回避するような戦略を必要としている。本研究では、予期せぬ巨大なリスクに対する家計の対処行動について、以下のような研究を行った。第一には、発展途上国におけるリスクと家計の貧困についての基礎調査のため、フィリピン・ロスバニョスの村落において、リスクと貧困に関するヒアリング等を実施した。第二には、1995年の阪神・淡路大震災のケースについて、基礎的な情報の収集と分析を行った。第三には、2004年12月に勃発したスマトラ島沖の津波が与えた被害について、網羅的な情報収集を行った。また、フローレンス大学・欧州農業経済学会主催のグローバリゼーションと貧困についてのカンファレンスにおいて、貧困に関する本研究の一部の研究成果を発表するとともに、意見交換・情報収集を行った。本研究の一部は、東京大学・一橋大学・神戸大学・フローレンス大学などで発表した。
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