研究概要 |
近年の日本の産業立地においては,製品の輸送費用の違いに基づく産業の地域特化が生じている.例えば,鉄鋼産業や,石油・石炭製品産業など輸送費用の高い産業は人口集積地の近くに立地し,一方,電気・電子機械産業,精密機器産業など比較的輸送費用の低い産業は人口集積地から離れたところに立地する傾向が強まってきている. 本研究の初年度においては,この現象を理論的に説明する「複数産業の経済地理モデル」を構築することを目的とした.モデルにおいては,通勤費用,住宅費用等の都市費用と混雑外部性を明示的に考慮した.主たる結果は,以下のとおりである.第一に,混雑外部性が存在しない場合には,輸送費用と通勤費用が十分小さくなった場合,高々1つの産業しか分散立地しないことが明らかとなった.さらに,その分散立地する産業よりも高い輸送費用を伴う産業はどちらかの地域に集中立地し,より低い輸送費用を伴う産業は他方の地域に立地する,完全地域特化が生じることが分かった.第二に,強い混雑外部性が存在する場合には,輸送費用と通勤費用が十分小さい場合においても,複数の産業が分散立地することが分かった.しかし,混雑が緩和していくにしたがって,部分特化から完全特化に近づいていくことが明らかとなった.
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