研究概要 |
本年度は、各国のリニエンシー制度の運用形態ならびに繰り返しゲームによる理論研究に関する調査にもとづき、理論モデルを作成し実験を行った。モデルでは、先行研究にならって、クールノー寡占モデルを単純化した囚人のジレンマゲームをベースにした。ゲームは2段階からなり、第1段階では囚人のジレンマゲームをプレイし、カルテルを結んで協調していた場合には第2段階でカルテルの事実を密告するか否かの選択を行う。少なくとも1名が密告すればカルテルの事実は明らかになり、密告したメンバーは罰金の減免を受け、それ以外は規定の罰金を課される。これとは独立に当局の独自調査によってもカルテルは確率的に発見される。このゲームを無限に繰り返すものとして分析し、実験的にリニエンシー制度の検討を行った。 実験では、(1)カルテルの規模(2社と7社)と(2)減免を受けられる範囲(密告した最初の1人のみ減免を受け,るか密告した全員が減免を受けるか)という2つの変数を操作して4通りの比較を行った。なお、理論的にはどの場合にもカルテルを維持し当局に密告しないことが均衡となるように条件設定した。また、実験では実験経済学の基本原理に則って被験者に経済的インセンティブを与える謝金を支払った。実験結果では、カルテルの規模については7社の場合の方が2社の場合に比べてカルテルが崩壊しやすいことが示されたが、減免を受けられる範囲については統計的に有意な差がみられなかった。 ここまでで得られた成果は、査読付国際学会であるInternational Institute of Public Finance(IIPF)第60回大会において採択され発表するとともに、経済産業研究所(RIETI)のディスカッションペーパーとして公表しているまた、IIPFの論文誌に投稿したが採択されなかったため、論文の改訂を進めて再度国際的専門誌に投稿予定である。
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