本年度は、京都議定書に盛り込まれた温室効果ガス削減に向けての国際的取り組みにおいて、実施手段のひとつである排出権取引の有望なプレイヤーとして期待されているロシアについて、温室効果ガス発生に関連する環境データの系統的収集と企業レベルでの各種共同実施プロジェクトに関する調査を行った。ロシア(モスクワ)での企業調査と資料・データ収集の分析結果を踏まえて、以下の成果と知見を得ることができた。 1.1998年通貨・金融危機からの景気回復過程を経て、近年のロシア経済は高度経済成長に入ったため、大気汚染物質の排出量が増加傾向にあることが判明した。1990年代は経済危機の影響で汚染物質の排出量は急減していたため、温室効果ガスの排出権取引をめぐるロシアの国家戦略が大きく変化する可能性も予想される(排出権取引量の制限、排出権の売り手から買い手への転換など)。関連して、温室効果ガスの排出量の多いエネルギー産業部門の効率改善に向けた施策の重点化が進められていることが確認された。 2.温室効果ガスの主要な排出者であるロシアのエネルギー産業は、経済・経営上の効率性の観点からだけでなく、国内外の政治的配慮からも影響される可能性が強いため、ロシアの排出権取引の展望はマーケットの動向だけでは判断できないという点で専門家・実務家の見方が一致していることが確認された。 3.京都メカニズムの実施に不可欠なロシア国内の制度整備状況は不十分で、企業レベルでの取り組みは低調であることが判明した。
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