研究概要 |
本研究では,医療貯蓄口座制度に関する調査研究をおこなった.前年度に引き続き,医療貯蓄口座制度を無保険および保険との比較によって特徴づけることを目的に分析をおこなった。 病気になって医療費支払いという金銭的損失が発生するかどうかは、個人にとって不確実である。人生後半での医療費支払いのリスクに対処する方法として、貯蓄(無保険)、医療保険、医療貯蓄口座の三つを取り上げた。また,分析では予防行動を考慮する場合としない場合について検討した。なお、医療保険は完全保険とし、医療貯蓄口座はシンガポールで採用されている制度を参考とした。 医療貯蓄口座制度を無保険および保険と比較して分析をおこなった結果は,以下の通りである。 まず、人々による予防行動を考慮しない場合も、考慮する場合も、医療貯蓄口座は、医療貯蓄が医療費用をカバーできるかどうかで性質が異なる。医療貯蓄が医療費用以上である場合、制度の存在が二期目の消費水準を平準化させリスクをなくすという意味で、医療貯蓄口座は完全保険と同じ機能を持つ。一方、医療貯蓄が医療費用を下回っている場合は、二期目の消費水準には格差、したがってリスクが存在したままとなり、医療貯蓄口座は貯蓄と同様の機能を持つといえる。 次に期待効用水準を比較すると、人々による予防行動を考慮しない場合、完全保険が一番大きく、ついで貯蓄、医療貯蓄口座の順になる。医療貯蓄口座においては、医療貯蓄が医療費用より小さい場合の方が、医療貯蓄が医療費用以上の場合よりも期待効用水準が大きい。予防行動を考慮する場合、医療貯蓄が医療費用より小さい場合について,期待効用水準は貯蓄が医療貯蓄口座を上まわる.
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