今年度は、第1に昨年度までの研究成果を整理し、第2に近年新たに浮上したアメリカ企業年金に関する政策的争点の分析を行った。 第1の作業は、渋谷博史・中浜隆編『アメリカの年金・医療』所収の拙稿「アメリカの確定拠出型企業年金」、および『松山大学論集』所収の「確定拠出型年金に関する政策的争点〜アメリカの投資教育と投資アドバイスをめぐる議論を中心に」という形で発表された。これらは、2001年のエンロン社破綻事件を契機に浮上した401(k)への規制強化議論、特に自社株問題と投資アドバイス問題について、その対立の構図と歴史的文脈を、金融機関のビジネス構造との関連において分析したものである。401(k)における金融ビジネスとそれが年金権に関して持った意義については、秋の社会政策学会において「オーナーシップ社会の歴史的位置」として発表した。この報告の内審は、2007年に発行の『社会政策学会誌』に掲載されることが決定している。 第2の作業について、論点となるのは2006年に成立した年金保護法および手数料の情報開示問題に関する議論である。これらの新しい論点について、書籍や雑誌、インターネットまたアメリカの投資信託協会やEBRIを訪問するなどして資料を収集した。これらの分析結果は、2007年度の証券経済学会にて「401(k)の手数料問題」として発表される予定である。また年金保護法に関する考察は、2007年に発刊される東京大学『社会科学研究』に掲載される論文にて発表される予定である。本研究は、企業年金分析における金融ビジネス構造の重要性を強調するものであるが、この視点はこの新しく浮上した争点を理解する上でも非常に有用であることが、これらの成果によって示される予定である。
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