本年度は、失業を含む新古典派型成長モデル、特に世代重複モデルについて関連文献を調査した。多くの新古典派型成長モデルは完全雇用を仮定しているため、人口成長・技術成長に伴い経済が成長していく。その枠組みの中で、賦課方式年金問題を分析すると、主に人口構造の変化が経済に与える影響に焦点を当てることになる。ところが近年の年金問題は、単に人口構造の変化による財源不足だけでなく、長期不況に起因する保険料収入の減少や、国民年金の未納なども一つの要因となっていると考えられる。したがって、年金問題を経済モデルを用いて分析する際には、失業をモデル内に取り込む必要があると考えた。 文献を調査した結果、効率賃金の理論や労働組合の交渉理論などの「構造的失業」を取り入れた世代重複モデルが存在し、そのうちのいくつかは年金分析にも用いられていることが分かった。しかし、二世代重複モデルのような、ライフサイクルをあまりにも単純に分割してしまっているモデルの場合、労働期間に失業しているということが非常に扱いにくい。したがって、多世代モデルの分析も進める必要がある。また同時に、失業補償などの別の社会保障政策との関わり合いも考えねばならない。今後は、この「構造的失業」を取り入れたモデルを用いて、賦課方式年金の理論分析を進めていく予定である。 また、コンピュータを用いた数値シミュレーションに関する文献調査も進めた。ライフサイクルを多期間に分割し、同時点に多くの世代が存在する一般均衡型多世代重複モデルを、コンピュータを用いた数値シミュレーションにより行う年金分析は、多くの先行研究が存在する。この分析手法は、年金制度の変更の影響が、具体的な数値として得られるのが特徴である。ところが、失業を伴った年金分析のシミュレーションモデルは、今のところ見受けられなかった。したがって、今後この研究を続けることにより、新しい知見が得られるものと期待できる。
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