世代重複モデル等の長期経済成長モデルは、完全雇用を前提として分析を進めるのが一般的である。しかし、実際の経済では、完全雇用は達成されることはなく、ある程度の失業が存在する。マクロ経済レベルの失業の原因として、一つは雇用側と労働側のミスマッチなど、いわゆる「摩擦的失業」がある。もう一つは、賃金が完全雇用の水準まで低下しない(スムーズに調整されない)ことによる「待機失業」である。長期的に見れば、価格(この場合、賃金)はスムーズに調整されるため、「待機失業」は解消されると考えられる。ところが、長期的にも賃金が下がらない、または、スムーズには下がらないとする考え方がある。それらの基礎となる考え方は、「労働組合の交渉モデル」や「効率賃金仮説」と呼ばれるものである。このような場合、「待機失業」も常に存在することになる。このような長期的な賃金の下方硬直性も経済の構造とみなし、「構造的失業」とした。 前年に引き続き、「労働組合の交渉モデル」や「効率賃金仮説」を、長期経済成長モデルの枠組みに取り入れ、分析を行っている先行研究を収集し、まとめた。そして本学の紀要、「産業総合研究」に発表した。 世代重複モデルの枠組みで、「労働組合の交渉」を導入し、賦課方式年金の理論的分析を行っているものは見られたが、「効率賃金仮説」を導入し、同様の分析を行っているものは、確認した中には見られなかった。したがって、今後の課題としては、この方向で理論分析および数値シミュレーション分析を行うことを考えている。また、「効率賃金仮説」を用いたモデルにも、努力関数の設定や、雇用側と労働側の情報の非対称性の状態などにより、いくつか異なったアプローチがあるので、それぞれについても比較分析を行う予定である。
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