研究概要 |
本年度は、市場規律アプローチに関する詳細な検討を行った上で,独自の分析を開始した.計画では,「(a)市場規律アプローチに基づいた銀行規制は本当に望ましいのか」という問題に関して理論的な検討を行うこととしていたが,(i)日本において現実にどの程度市場規律が働いているのかを明らかにしてから理論分析を行うことが望ましい,(ii)研究代表者が既に保有するデータを用いて実証分析を行うことができることが明らかになった,という二つの理由から,研究の順番を変更し,「(c)日本の金融市場において銀行の経営情報は資本市場において十分伝達されているか」に関する分析から開始することとした. 具体的には,日本のCD(certificate of deposit,譲渡性預金)市場において,銀行が発行するCDに対して投資家が銀行のリスクを反映させた投資・価格付けを行っているのかどうかを分析した.そこでは日経企業財務データを用いて日本の都市銀行,地方銀行のCD金利を求め,CDの需要(投資家のCDへの資金供給)関数,供給(銀行のCD発行)関数,および銀行の費用関数を,不良債権データが利用可能な1992年度から2001年度に関して同時推定するというアプローチを採った.さまざまな定式化や変数を用いた推定を試みた結果,需要関数は期間によってかなり変動が大きいことが分かり,期間を区切った推定を行うことで安定した結果が得られるようになった.その結果によると,期間の初期においてはCD需要は不良債権比率や銀行の上場の有無等銀行のリスクを表す変数に対して官能的ではなかったが,ごく最近期においてはこうした変数が重要になってきており,市場が銀行のリスクに注目しだしたのではないかという結果を得た.今後はこの結果を早急に論文にまとめて投稿し,研究計画中の問題(a)や(b),そして新たな(c)に関する分析を開始したい.
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