研究概要 |
本年度の研究は,銀行の経営情報の市場伝達に関する継続中の研究から開始した.しかし,期待された改善が見られず,また類似の研究が先に発表されたことから,同研究は大幅な再検討を余儀なくされた. そこで新たな視点から検討した結果,銀行に対して市場規律が働いているかどうかを「効率性仮説」と呼ばれる仮説の検証によって明らかにすることができることが分かった.Demsetz, H.(1973, J. of Law and Econ.)が提唱した効率性仮説とは,市場競争の原理が働く限り,効率的な企業が競争に勝って成長してゆき,その結果効率的な企業が大規模になり,市場集中度が高くなる,という仮説である.この仮説はまさに市場規律のメカニズムであり,銀行に応用することによって市場規律が働くかどうかを検証することができる. そこで,1974年以降2001年度までの都市銀行を対象として効率性仮説が成立するかどうかを検証する分析を行った(筒井・佐竹・内田(2005)).分析では,まずパネルデータを用いて銀行の組織的非効率性と規模の不経済性を推定した上で,その推定値が次年度の銀行規模にどのような影響を与えるかを吟味した. その結果として,貸出額に対して組織的非効率性は負の影響を与えるが,規模の不経済性は想定とは逆に正の影響を与えることが見いだされた.これに対し,銀行の資産に対しては,組織的非効率性と規模の不経済性の両方とも負の影響を与えるという,効率性仮説と整合的な結果が得られた. さらに分析を発展させる努力を行った結果,分析手法を改良することによって効率性仮説だけではなくSCP仮説をも検証できることが分かり,新たに得られた知見をまとめたのが筒井・佐竹・内田(2006)である.その推定結果では,組織的効率性を用いた場合には効率性仮説は支持されるが,規模の不経済性を用いた場合には支持されず,SCP仮説は必ずしも支持されない,ことが示されている.
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