本年度の課題は19世紀前半にアジアに輸出されたロシア製綿織物が、具体的にアジアの消費者にどのように使用されていたかについて、物質文化の観点から調査を行った。ロシアの綿織物は当時ペルシア、中央アジア、中国に輸出されたが、今年度の調査はペルシアと中央アジアにおけるロシア製品の使用に焦点を当てた。この遂行のために、従来の調査とは異なり、博物館や骨董商の専門家に調査協力を御願いした。本年度7月には東京新宿にある服飾博物館を訪問し、博物館に所蔵されるペルシアの服飾コレクションを閲覧すると同時に、コピーを行った。そのコレクションの中に服飾の裏地としてロシア製更紗が使用されていたことを確認した。その後、博物館の紹介でイランの織物を販売している骨董商を紹介していただき、骨董商から聴き取り調査を行った。 8月末から1週間イランを訪問し、主にテヘランとタブリーズの博物館・骨董品店を訪問し、19世紀半ばのペルシア服飾について調査を行った。これにおいても、ロシアの更紗が19世紀半ばに多くのペルシアの服の裏地に使用されていることを確認した。 10月末から2週間ウズベキスタンを訪れ、主にタシケント、ヒヴァ、サマルカンド、ブハラの博物館を訪れ、19世紀半ばの中央アジアの服飾状況を調査し、ペルシアと同様に中央アジアの消費者がロシア製更紗を服の裏地に使用されていたことを確認した。 上記の研究成果の一部を、3月に行われた国立民族学博物館共同研究会「地域研究における記述」で報告した。
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