研究課題
本研究では、環境イノベーションに関する企業戦略について,日本,米国、欧州における電機電子産業を対象として分析を行った。書籍、雑誌、報告書などの文献を収集・分析し、日本、アメリカ、ヨーロッパにおいて、電機電子産業に関連してどのような環境政策・規制が導入され、どのような企業戦略が取られているのかに関して、予備的な調査を行った。特に、電気・電子機器のプリント板では鉛はんだが広く使用されてきたが、その製造時の余剰はんだは回収し、もう一度溶融してはんだとして使用されることが多い反面、最近EUが導入を決定した電機電子製品に含まれる有害物質の規制などに対応して、特に日本企業の中には鉛を他の材料で代替した鉛フリーはんだの研究開発・製品化を積極的に進めている企業が存在している。こうした企業はどのような戦略的意思決定を行っているのか、研究開発、サプライヤーとの協力など企業間関係に変化はあるのか、結果としてイノベーションの創出、競争力にどのような影響を与えているのかに関して検証を行なった。研究開発活動やサプライヤーとの協力を調査するために、特許などの定量的な分析も活用した。具体的事例として、特に有害化学物質対策、鉛フリーはんだの開発・採用に関して、各電機電子企業、部品メーカー、関連する産業団体、大学研究者、および政策担当者へのインタビューを行い、詳細な情報収集を行った。1990年代初めに、アメリカにおいて鉛はんだに関する規制の提案がなされたが、結局議会における反対により成立しなかった。こうした海外の環境規制に対応して、国内での規制がまだ導入されていないにもかかわらず、日本企業による鉛フリーはんだの開発への取り組みが始まった。鉛フリーはんだの実用化には、実装、はんだ、装置、部品、デバイス、プリント基板などの関連業界の協調・摺り合わせが必要であったが、産業団体・大学・政府機関がネットワークを形成し、研究プロジェクトの遂行、開発・実用化ロードマップの作成、規格の標準化が積極的に推し進められた。そうしたことにより、技術・知識の蓄積が進み、環境政策、および技術開発に付随する不確実性の減少を通じて、鉛フリー化に関するイノベーション・ネットワークの参加者間での期待と行動のコーディネーションの促進された。日本での鉛フリーはんだの開発に対応して、日本の産業関係者からヨーロッパでの鉛フリー化の規制に対する働きかけが行なわれ、特にRoHS規制のスケジュール・細目の決定へ影響を与えることになった。そして、ヨーロッパにおける規制の決定が、さらに日本、ヨーロッパ、アメリカのイノベーション活動を活発化させる一方、中国など他国・地域における同様の規制の導入が広がりつつあり、環境規制とイノベーション・ネットワークの共進化が観察される。
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社会技術研究論文集 2
ページ: 39-48
新しい環境法制のあり方を考える研究会ワークショッププロシーディングス(経済産業研究所)
ページ: 46-72
研究・技術計画学会第19回年次学術大会講演要旨集
ページ: 175-177
ページ: 159-162
Paper presented at the 10th International Joseph A.Schumpeter Society Conference, Milan, Italy, 9-12 June