本年度は、産業集積の発展と衰退を決定付ける要因として、起業家の活動が他の潜在的な起業家に与える影響力について主に焦点を当てて研究を行った。 2005年にナポリ大学で開催された欧州中小企業学会では、イタリアの起業家ネットワークの発展パターンが産業集積構造を創造する基盤となっていたことを発表したが、その報告に用いたフルペーパーが当学会でのベスト10報告に入選した。当論文は、2006年におけるINTER-RENTの候補論文として4回ほどレビューワーとの問でのやりとりがあり、日本の起業家活動に関する知見を導入しながら、修正を重ねることとなった。本年度は、その修正で得られた知見をもとに、日本の起業家活動とそのインキュベーションメカニズムについて、ワーキングペーパーとしてまとめた。また、経済社会学会においては、産業集積のネットワークとガバナンスというタイトルでの共通論題から、産業クラスター形成における起業者間の学習についての考察を、学会年報に掲載した。 さらに、本年度の研究においては、産業集積の発展プロセスにみられる起業者間の学習に関して分析を深めるために、インキュベーション機関に入居する開業したばかりの企業間に見られる学習促進のシステムについて調査をおこなった。大阪市都市型産業振興センターに所属する起業支援施設を事例とし、インタビュー調査資料を公開可能な形式にまとめた。本資料を用いた成果は、次年度の別の研究へと引き継がれることとなった。
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