本年度の研究は、昨年度開発した質問紙を用いて実証的な分析を行い、仮説の検証と概念モデルに関する再検討を行った。具体的な研究内容は次の通りである。 1)定量的研究の実施 本研究の主たる目的は、境界連結者としてのミドルによる対外的なネットワーキングにおけるパワーと信頼の構造に関する実証的分析である。そこで当初、こうした現象が散見される大手ゲームソフトウェア企業に対してアンケート調査を実施する予定であった。しがしながら、該当する企業数に著しく制約があることに加え、昨今の厳しい経営環境から、それらの企業に対してアンケート実施の依頼を打診したが、いずれも研究協力が得られなかった。そこで、研究代表者が関与している研究コミュニティに集うミドルレベルの企業人に被験者になってもらい、同アンケートを実施した。結果は、サンプル数が極めて少なかったことと、所属業種にばらつきがあり、信頼とパワーとの因果関係について統計的に有意な結果を導出することはできなかった。 2)定性的研究の実施 一方、研究代表者は中小小売業のトップ数名に対してヒアリングを実施する機会が得られたので、最も組織間関係に影響を及ぼすと推察されるトップに関する信頼やパワーの構造を、彼・彼女らのナラティブから分析することにした。本定性的研究から得られた発見事実は、トップは交渉の際ミクロ信頼とポジティブ・パワー・ベースとの関係は強く認識する傾向にあったが、マクロ信頼とネガティブ・パワー・ベースへの認知は脆弱であった。 3)概念モデルと分析方法の再検討 上記の2つの実証的研究から、本研究で想定していた概念モデルの修正と新たな仮説の再検討を行った。また、実証研究の方法も、社会心理学を援用した対人的関係を分析する尺度を用いた定量的研究だけなく、近年社会的関係資本の分析として注目されている社会ネットワーク分析の可能性についても検討した。
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