研究概要 |
本年度は、昨年度得られた知見をもとに、主として質問票調査を実施した。中部地区の企業を対象としたアンケートでは、2,000を越えるサンプルを対象とし、従業員のモチべーションが高まり、学習活動が活発になるような仕組みを分析・考察した。 その結果、やはり所属するプロジェクトや職場において、権限委譲が進んでいたり、自由に議論ができる雰囲気などの存在も重要であったが、会社や周囲がその従業員、および従業員の位置付けを真に尊重しているかどうかは、彼らのモチべーションに比較的大きな影響力を及ぼしている可能性が浮かび上がってきた。たとえば、近年、企業では一人一人の従業員に、エンプロイアビリティを高め、プロフェッショナルとして会社に貢献することを期待する傾向があるが、それに伴って、管理職ではなく、専門職を別のキャリアコースとして奨励することが少なからずある。だが、従業員の受け止め方は非常に懐疑的で、会社がどう奨励しようとも、やはり専門職は管理職になれない者が選択せざるをえないキャリアコースであるという考え方が根強いことが明らかになった。そして、それと同時に、そう受け止めている限り、本人が仕事内容そのものに対しては高い満足度を示していても、その従業員のモチべーションや学習意欲は、それほど高い水準にはならない傾向が確認された。 この分析結果については、現在のところ、報告書として作成したのみであるが、来年度中には論文の形に直し、学会や学会誌などで正式に発表していきたい。 また、一方、企業組織と対比する対象として、昨年度調査に組み込んだ愛知万博における市民プロジェクトに対しても、プロジェクト・マネジメントのあり方やそこでの学習状況の進展などに関して、昨年度得られた知見をもとに、質問票調査を行った。こちらは、400程度のサンプル回収状況であったが、プロジエクト進行にあたって、メンバー間の価値観や考え方のギャップやコンフリクトの存在が浮かび上がってきた。回答者の6割近くは、活動そのものには満足し、活動を通じて多くの知見を得たとしながらも、価値観や考え方の違いから活動を停止したいと思ったことがあることを回答していた。 おそらく企業組織のプロジェクトにおいても、同様の問題は程度の差こそあれ発生しうると考えられるが、市民プロジェクトという契約関係に拘束されていないプロジェクトであったことから、企業組織の場合よりも、その問題がより鮮明に確認できる形になったのだと思われる。 来年度は、こうした2種類の異なる分析対象から得られた知見を互いに活用しあったり、対応させることによって、昨年度のヒアリングの内容もより深める努力をしつつ、最終的なまとめに着手していきたい。
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