平成16年度は、中小・ベンチャー企業について、当該企業が親会社を有する場合、あるいは企業グループに属している場合について、主に研究を行った。日本の大企業は、自らが既に公開している場合であっても、その子会社やグループ会社を新規公開させることが珍しくない。欧米においては、既公開の親会社が、支配権を維持したまま子会社を新規公開させることは、あまり行われない。新規公開させるのであれば、親会社株主に子会社の株式を割り当てるスピンオフのような方法が用いられることが一般的と考えられる。 親会社が支配権を維持したまま、その子会社等を公開させることは、新規公開によって新規に株主となった者と親会社ならびに親会社株主との利益相反を引き起こす可能性がある。なぜなら、子会社の企業価値最大化と、グループ企業全体の価値最大化は、必ずしも一致するとは限らないからである。一方で、親会社が存在する場合には、子会社が経営危機に陥った際に、後ろ盾となって救済がなされる可能性がある。従って、中堅の中小・ベンチャー企業が新規公開を行う場合について、親会社が存在する場合と存在しない場合の差異については、実証的に明らかにされるべき課題と考えられる。中小・ベンチャー企業に分類される企業であっても、財務政策ならびに経営戦略上、極めて重要な課題である新規公開と、それに至る企業経営の過程は、親会社の有無によって、大きく異なることが予想される。本年度の研究では、なかでも新規公開時に焦点を当てて、親会社と子会社の関係を分析した。 実証分析の結果、親会社のコントロール権が強く、また親会社の経営上のリスクが子会社の少数株主に波及する可能性が大きいほど、そのリスクを反映して新規公開時の公開価格がより低めに設定されやすいことが示された。また、長期的な視点でみると、相対的に企業規模の小さい新興市場では流動性が重要であるのに対し、比較的企業規模の大きな既存市場では親会社によるガバナンスの効果が表れやすいことが明らかになった。これらの結果は、支配的大株主としての親会社が、子会社の少数株主との問に深刻な利益相反問題を引き起こす恐れは小さい可能性を示唆している。
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