研究概要 |
本研究の目的は,都市商業地の空間的な動態の理解である。従来,商業地に新しい中心が生まれ,その地域が急速に商業地化する「複極化現象」はそれほど注目されてこなかった。このような商業地の複極化のメカニズムを明らかにすることが,本研究の基本課題である。 本研究のより具体的な課題は,これまでにおこなってきた都市商業地の事例研究を補完するために,さらなる事例の調査をおこなうことであった。今回その1つとして,北海道札幌市の円山公園周辺部の聞き取り調査と現地資料収集をおこなった。調査に当たっては,当初の計画通り,現地在住で当該商業地に詳しい人物に協力をいただくことができた。また,地元の情報誌の編集者(ポロコ編集部)ともアクセスし,現在の商業地の動向についてディスカッションする機会を得ることができた。これらのことにより,現地の関係者にスムーズにアクセスすることができた。 札幌市中心部の外側にある円山公園周辺部は1980年代後半から急速に商業地化が進んでいった。閑静な住宅街としての地域の高いイメージが,それらを利用したい商業者を引き寄せ,集積が形成されていったのである。しかしバブル崩壊後,集積形成の勢いは衰え,現在はほとんど集積としての体をなしていない。 このような商業地の衰退事例の調査によって,以前に検討した大阪市中心部の事例と比較し,新たな知見の契機を得ることができた。具体的には,既存商業地の周辺部に新たな集積が形成されるには,その周辺部がもつイメージ,雰囲気などの質的要素が重要となることがわかっていたが,それ以外にもその地域において,商業者が自由な表現のできる建物が多いかどうか,という「地域自由度」(概念は仮称)という要素が重要であることが確認できた。今後は,この知見をさらに深めるために,円山公園周辺の歴史的経緯を中心にさらなる調査をおこない,公表論文とする予定である。
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