研究概要 |
本研究の目的は交差文化的なマーケティング関係性における信頼を実証的に検証することである。こうした目的の下で,本年度における成果は,第1に理論的基礎の再考察,第2に尺度化の検討,第3に質問票送付ターゲットの識別,第4に国際マーケティング能力構築との理論的区分の4点である。 第1の点は,社会科学全般にわたる厖大な信頼関連文献,新しくビジネスのコンテクストへ応用された文献の詳細なレビューを通じて行われた。とりわけ,後者の文献についてはProQuestデータベースを利用することで,最新文献へのアプローチと文献検索の効率化が可能になった。 第2の点については,一般的な信頼尺度を用いて日本とタイの文化的背景のもとでプレ調査を行った。事前に予想されたとおり,文化的距離が比較的大きいと考えられる両国間で尺度に対する反応には差が生じていた。こうした発見事項は,来年度に行われる調査において,いずれの国ないし文化を比較の対象とするかが重要となることを示唆している。したがって,プレ調査の結果をリサーチ・デザインに十分に反映させる必要がある。 第3の点は,明治大学特任研究員として参加している文部科学省学術フロンティア事業「先端的グローバル・ビジネスとITマネジメント」における人的ネットワークの利用を通じて可能となった。既存のディレクトリの利用はコストの削減のみならず,サンプルの代表性を考慮する際にも有用である。 第4の点では,本研究の焦点である信頼概念と,企業の長期的な国際化プロセスおよび国際マーケティング能力構築との関連性に対して理論的考察を行った。ここでは,標準化と適応化の相互作用を通じた能力構築と,信頼概念を中心とする関係性管理問題とを区分して考察すべきことを論じた。これにより,より適切な本研究の範囲が設定された。
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