1970年代中頃から約30年間にわたって、日本企業が稼得した会計利益をマクロ・レベルで追跡したところ、2004年の利益水準はバブル期なみに回復しているものの、その直前期間に非常に大きな落ち込みが観察された。すなわち、10兆円を超えるような特別損失が計上され、業績が大きく悪化したのが2001年と2002年であった。こうした年度において頻発したビッグバス行動について複数の観点から研究に取り組んでいる。 まず、巨額な特別損失の計上が証券市場に対して及ぼす影響を調査するために、総資産の10%に達する巨額の特別損失を計上した企業を調査対象とし、そのビッド・アスク・スプレッドを分析した。特別損失計上以前の決算発表時にビッド・アスク・スプレッドが有意に拡大し、流動性の低下という悪影響を証券市場に及ぼしていることが析出された。この調査結果は、「滋賀大学経済学部講演会」において報告した。現在は、そこでの議論を踏まえながらドラフトを改訂中である。 次に、こうした特別損失の計上が当該企業にとって資本コストの上昇という追加的な負担を招いたか否かを明らかにするために、資本コストの推定に必要なデータベースの構築に取り組んでいる。このデータベースが完成次第、巨額な特別損失の計上と資本コストの関連性について実証的な調査を実施する。 さらに、こうしたビッグバス行動がなぜ2001年と2002年に集中したのかという点についても調査したい。この時期は会計基準が大きく変更された時期でもあり、経営者は業績の悪化を会計基準変更という外部要因に転嫁できたという点を考慮しながら、その経済的動機を解明する。そのために、経営者の報酬形態に関するデータの収集に努めた。現在は、それらを統計処理するための前段階にあり、データの入力作業を継続中である。
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