日本企業が報告する会計利益の時系列特性と、それが証券市場や企業に対して及ぼす経済的影響について、複数の視点から実証的な分析を展開した。 まず、日本企業のビッグバス行動が2001年と2002年に集中し、会計利益の特性が近年大きく変化している点について、最近急速に普及してきたストック・オプション制度に着目して分析を行った。それによれば、ストック・オプションの権利を付与する直前の決算期において損失を計上した企業はそうでない企業に比べて、有利な水準で行使価格が設定されている証拠を獲得した。すなわち、ストック・オプション制度の普及が損失計上やビッグバスに対する経営者の抵抗感を希薄化させている一因となりうることを明らかにした。 次に、株式市場で約定されたそれぞれの取引を買い手が主導した場合と売り手が主導した場合に分類し、決算発表日周辺の投資家の売買行動を詳細に分析した。それによれば、企業がグッド(バッド)・ニュースを発表した時に売り手(買い手)が主導した株式取引が有意に増加している証拠を獲得した。すなわち、決算発表というニュースに対する最適な反応とは異なる理由に基づいて株式を売買している投資家が数多く存在しており、こうしたノイズ取引の存在が証券市場における不偏かつ迅速な価格調整を妨げている可能性を明らかにした。 それから、証券アナリストの利益予測データに基づいて、企業情報の精度と資本コストの関連性を調査した。それによれば、すべての市場参加者が利用・理解できるような形で情報を開示している企業は、資本コストの低下という経済的便益を享受する一方で、一部の市場参加者しか利用・理解できない形で情報を開示している企業は、資本コストの負担が重くなるという経済的帰結の存在が示唆される。こうした研究成果に関しては、日本会計研究学会第64回大会(2005年9月)において研究発表を行う機会を得た。
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