本年度においては、主として企業に対するヒアリング活動とデータセットの構築を行った。本研究における主たる関心は、企業におけるリスク管理活動の実態を把握し、デリバティブの利用が企業価値の向上あるいは株価で測定した企業リスクの削減につながっているかどうかである。そして、最終的な目標はそうした活動を適切に表すためにはいかなる会計基準が必要であるかを確認し、現行の金融商品会計基準の改善案を提示することになる。 したがって、何よりも優先されるべき事項は、実際の企業あるいは機関において、デリバティブを用いたリスク管理活動がどの程度浸透しており、またリスク管理活動はどのように行われているかの実態を把握することである。それ抜きにシミュレーションや実証研究を行っても、実態と乖離した議論をする危険性が高いからである。そうした観点から、可能な限り多くの企業にアプローチし、承認を頂いた所からヒアリング活動を行ったが、私が考えていた以上に実際のリスク管理活動の構造は複雑かつ多様であり、また企業によってまちまちであった。そのため、よりよい研究成果を呈示するためには、当初想定していた以上のヒアリング活動を行う必要があり、また実証に併せてリスク管理活動の実際のケース作成を、来年度行う方向で調整するに至っている。 同時に、CD-ROMの購入や研究補助の利用、更に私自身が協力を得られる機関に出向くなどして、シミュレーションと実証を行うためのデータの収集及びデータセットの構築を行った。こちらも、企業の財務データについては有価証券報告書から直接手入力しなくてはならない項目が多く、またデータの確認作業のため、研究補助への謝金の金額が当初の見込みより大きくなった。財務データセットの構築は来年度の初めには終了し、半ばからは当初計画していたシミュレーションや実証分析に着手できる見込みである。
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