研究概要 |
近年、マネジメント・コントロール概念は高位のマネジャーだけでなく幅広い階層へと対象を拡大する傾向にある(Otley,1994,1999)。しかし、オペレーショナル業務を行う従業員にたいするマネジメント・コントロールの研究はいまだに多くはない(Hansen et al., 2003)。本研究ではこのギャップを埋めることを意図している。これまでオペレーショナル業務に従事する従業員にたいするコントロールとしては、管理会計によるコントロールは従業員のモチベーションを高めるためには適切な方法ではないといわれてきた。しかしミニ・プロフィットセンター制(MPCS)は、主にオペレーション階層に適用され、管理会計システムと管理会計情報を積極的に活用しながら従業員のモチベーションと企業業績の向上を可能にしているという。本研究では、このMPCSのモチベーション効果を検証するために質的研究方法と量的研究方法の両方を活用して調査を行った。まず、MPCSを採用するある日本企業のケーススタディをとおしてMPCSの特徴となる業績管理システムとしての性質を明らかにした。次にこのケーススタディからの知見に基づいて、MPCSのもつモチベーションを可能にする要因の有効性を実証した。99人の回答を用いて3つの従属変数について統計的分析を行つた結果、MPCSでは会計情報が従業員の「成長感」と「全社利益への貢献」の両方にたいして有意に正の関係があった。次にリーダーの「利益責任の引き受け」については、「影響可能性」「成功体験」「長期期待」と有意な関係にあった。これらの結果からの結論として、まずMPCSでは会計情報がリーダーのモラールの向上と全社利益の向上に関係があることが確認された。次に、リーダーが利益責任を引き受けることが全社利益の向上にたいしては重要であること、そのためには、リーダーの「影響可能性」と上司による主観的・長期的業績評価の実施が重要であることが分かった。将来の研究課題としては、業績管理システムにおける会計情報以外の要因と従業員モチベーションとの関係の調査が考えられる。
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