研究概要 |
18年度では2つの研究成果を出すことができた. (1)IPO企業の公開後の長期アンダーパフォーマンスというアノマリーについて,865社をサンプルとして分析を行ったものである.JASDAQ指数をベンチマークとした場合,公開後36か月で累積超過収益率はベンチマークを下回り,このアノマリーが存在していることを確認した.アノマリーの要因分析として,公開企業の公開前後の業績を分析した.公開企業の財務パフォーマンスは,公開直前では高い収益性を示しているものの,公開後はそれが低下する傾向が観察された.この事実を基に,本稿では公開企業の収益性と長期パフォーマンスとの関連性の検証を試みた.分析からは,企業の収益性というファンダメンタル的な要因が,長期パフォーマンスを説明する一因となっていると考えた. (2)IPO時の主幹事証券会社による公開価格決定プロセスの効率性を検証した.公開を引き受ける主幹事証券会社による価格決定が効率的であれば,仮条件価格の水準や仮条件価格から公開価格への変化(価格修正度)は,公開企業のプロファイルやブックビルディング期間に得られた情報を反映しているはずである.仮条件価格幅の分析では,初値からのアンダープライシングを説明する変数との関連が観察されなかった.このことは,仮条件価格が結果的にアンダープライシングであることを間接的に示すものであり,幹事証券会社の価格算定は適切でなく,公開会社に機会損失を与えている可能性を示唆している.価格修正度の分析では,一般に利用可能な情報が価格に織り込んでいることを明らかとなり,この点では効率的な価格形成が行われていることを示した.一方で,IPOのモメンタムを示す変数が有意であったことから,IPOに際しては市場が短期的な視点で捉えていることを示した.最後に,価格修正度の推計結果と共に,公開価格と仮条件価格帯との関連から,主幹事証券会社による公開価格算定には慣習的なバイアスがかかっている可能性を指摘した.
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