本年度は、わが国およびオーストラリアにおける環境会計ならびに持続可能性会計について、現状を分析することに重点をおいた研究を行った。具体的には、横須賀市、岩手県および山口県における環境会計の事例について、追跡調査し、比較研究を行った。また、オーストラリアにおける連邦政府機関ならびにニューサウスウェールズ州とビクトリア州における持続可能性報告について調査を行った。 これらの事例において課題とされている点として、環境会計における効果の貨幣的測定がある。環境会計においては、コストをかけた結果としての効果の測定が重要であることを踏まえ、環境会計における効果の貨幣的測定に関する論点整理を行うとともに、プライベート・セクターにおける先行事例を検討し、その課題と展望を明らかにした。当該研究の概略としては、まず、わが国環境会計の進展に多大な影響を及ぼした環境省による「環境会計ガイドライン」(2000年、2002年および2005年)における環境コストと効果の取り扱いについて整理し、当該ガイドラインにおいては、効果の貨幣的測定について詳細な指針が提示されていないことを課題として識別した。当該ガイドラインの影響により、環境会計における効果の貨幣的測定の結果を開示する企業はあまりないものの、一部の先進的な企業では、積極的に取り組んでいる。そのため、これらの先進的事例を分析し、その課題を明らかにした。さらに、現在、環境経済学の分野において研究が蓄積しつつある環境の経済評価法について、主としてCVM(仮想的市場評価法)とコンジョイント分析を用いた研究をレビューし、その課題を明らかにした。なお、これらの手法は、岩手県や横須賀市の環境会計においても利用されている。 そこで、環境会計における効果の貨幣的測定に関して、外部性の評価の一手法である維持コスト評価法に着目するとともに、エコ・バジェットという自治体の予算管理手法を援用し、効果の貨幣的測定を行い、開示することを提案した。 本年度における以上の研究は、自治体の管轄行政区域における環境政策の良否を判断するためのツールとして環境会計が機能するための、予備的考察として位置づけられる。本年度完結しなかった研究としては、SEEA(環境・経済統合会計)2003年版のレビューと、その自治体環境会計への援用がある。当該領域については、引き続き研究を実施し、本年度行った効果の貨幣的測定に関する研究と突き合わせ、自治体の管轄行政区域における環境改善の貨幣的測定へと結びつける予定である。
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