1.ステークホルダー概念の検討 従来、会計学の研究領域において、投資家以外のステークホルダーが、企業の情報開示の情報利用者として明示的に取り上げられて考察されることは、あまりなかった。しかし、最近では、投資家以外のステークホルダーに対する関心が、会計学の研究領域においても高まっている。そこで、経営学の研究領域におけるステークホルダー研究を援用して、ステークホルダー概念とその類型化のアプローチについて検討した。そして、ステークホルダーの類型化が、類型化された各グループの情報ニーズに応じて、企業の情報開示において開示される情報内容を改善することに資することを指摘した。 2.企業の情報開示拡大化の論拠としての「不信解消」ないし「信頼の創出」 従来、会計学研究においては、企業の情報開示拡大化の論拠として、アカウンタビリティ概念の拡張が主張されているが、こうした主張には限界がある。そこで、「企業と社会」の理論におけるステークホルダー・アプローチの観点から、企業の情報開示拡大化の論拠を検討した。そして、企業の情報開示拡大化の論拠を「不信解消」ないし「信頼の創出」に求める方が、企業の経済・社会・環境的側面に関する広範な情報内容を包摂する企業の情報開示の実現を支持し、さらにステークホルダー・マネジメントの観点からも適当であること、かつ利用者志向的会計理論とも整合的であることを指摘した。 3.ステークホルダー・アプローチに立脚した企業情報開示に関する実証的研究 ステークホルダー・アプローチを実証的会計学研究に援用して、企業が社会責任活動の一環として情報開示活動に取り組むこと、そして企業が情報開示を含む社会責任活動に取り組む背景ないし理由には、多様なステークホルダーとの良好な信頼関係を構築・維持しようとする企業の戦略的対応があるとの証拠を提示した。
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