今年度は、三重県紀伊長島町に在住の高齢者を調査対象者として、アンケート結果の分析、ならびに山村集落での聞き取り調査を実施した。調査の目的は、「残留高齢者」と「他出子」との交流、支援のあり方を調べるというものであったが、これら調査の結果、以下のような知見が得られた。(詳しくは、石阪督規・緑川奈那「過疎地域の高齢者と他出子-三重県紀伊長島町の調査事例を通して-」『人文論叢』第22号、2005年を参照されたい) 1 高齢者と他出子の交流頻度についてみてみると、他出子の居住地が遠方になればなるほど交流頻度は減少した。また、支援目的は「身辺介護」が主となり、話し相手になったり、相談に乗ったりといういわゆる「情緒的支援」については後回しになる傾向がみられた。 2 しかし、他出子が遠方に居住していることが、そのまま「関係の希薄さ」に結びつくわけではなく、むしろ「近居型」の他出子は「包括的支援」(日常的な交流を通した幅広い援助)を主とし、「遠距離居住型」の他出子は「情緒的なものへと特化した(限定した)支援」(電話や生活用品の補給など)を主とするといった、「距離に応じた支援方法の違い」があることが明らかとなった。 3 他出子が遠方に住む高齢者にとっては、子どもからの電話や手紙が、親子の精神的なつながりを維持するための貴重な「機会」となっていることが確認された。また、こうした状態では日常的な交流がほとんどないぶん、高齢者の自立心が醸成され、生活上もまた精神的にも子への依存度が低くなるという結果もみられた。
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