今年度はフランスの地域通貨SELに類似した団体である知識の相互交換ネットワークのフィールド調査を実施した。トゥールーズのZUP(脆弱都市地区)として指定されている貧困世帯の集中する地区(バガテル)で活動している知識の相互交換ネットワークに研修生として参加し、聞き取りや参与観察を行った。また該当地区の地域アソシアシオン(非営利団体)にも聞き取りを行い、地域のなかで多様なアソシアシオンが連携がネットワークを形成しており、相互の情報交換や交流が盛んであることが確認できた。 調査対象であるバガテルは47%以上の失業率の地区であり、相互交換ネットワークの参加者は50カ国以上の国籍および出身から成り立っている。そのなかには離婚世帯、移民家族、難民など、フランスで社会問題として注目されている「社会的排除」された層が集中して参加していることを確認することができた。またこの地区は2001年の化学工場AZF爆発事故の被災地区でもあり、参加者のなかには事故の被災者もみられた。さらに調査の過程で他の地区の同様の団体参加者からも聞き取り調査を実施し、相互交換ネットワークの参加者は女性が多いことでは共通するが、活動地域によって社会階層や国籍・出身・目的が大きく異なることが明らかになった。 以上のように、本年度は調査開始からの課題である、さまざまな種類のリスクへの対策として地域交換のアソシエーションがどのように機能しているのかという問いにたいする新たな経験的知見を得ることができた。 研究成果は、「社会的排除とコミュニティケア」(研究代表者:福原宏幸大阪市立大学大学院教授)研究会でも一部報告している。また現在は本研究と関連しているセルジュ・ポーガム編著『社会的排除:学際的研究の現状とその展望』(2005年発行予定)の翻訳作業を研究会のメンバーとともに行なっている。
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