昨年度は調査開始からの課題である、さまざまな種類のリスクへの対策として地域交換のアソシエーションがどのように機能しているのかという問いにたいする新たな経験的知見を得ることができた。今年度はさらに、社会的排除の主要な側面である「関係的」次元に焦点を当てて調査を行った。 本調査の対象地域はZUS(脆弱都市地区)として指定されている貧困世帯の集中する地区であり、そこで活動しているアソシアシオン(非営利団体)のメンバーや一般住民にも聞き取りを行なった。これまでの調査から地域交換のアソシアシオンには現在ヨーロッパで政策的議論の対象となっている「社会的に排除された層」が参加しており、こうした層が非営利団体のなかで相互支援のネットワークを形成していることが明らかになっている。 今年度はこうした知見を踏まえて、社会的排除の関係的次元に注目した調査を行ってきたが、今回明らかになったことは、フランスでは社会政策の地域化が八十年代から進んでおり、政策対象の地区には「社会的排除」とよばれる様ざまな不利益を抱えている層が集中しているが、必ずしも住民は移民や失業者ばかりではなく、多くは不安定雇用などの「不安定状況precarite」の結果としてこれらの地区に集中するプロセスがあることがわかった。こうした観点から新たに、家族や労働、教育、福祉等の制度にかかわる「社会的紐帯の断絶」の多様な側面が明らかになった。 彼らが抱える社会的紐帯の断絶の問題は、たんに社会的ネットワークの弱さではなく、ZUSには社会政策として多くの公的機関などの制度が存在し、これらの制度と住民との関係の悪化が問題であり、そのため非営利団体などの媒介的なネットワークが必要とされているのである。 さらに今年度は、フランス国立社会科学高等研究院セルジュ・ポーガム教授の研究チームに参加する機会を得た。これまでの研究成果にもとづき、さらに国際比較研究に着手することが今後の課題である。
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