本年度は、合理的選択理論に関する理論的な整理と若年非正規雇用の社会階層への応用の可能性を検討した。合理的選択理論は、しばしば「現実に合わない経験的に誤った理論」と評価されたり、逆に「何でも説明できるが反証不可能で非科学的な理論」と評価される。これらの批判が妥当ならば、社会階層論への応用も無駄である。しかし、仔細に検討すると、前者の批判はいくつかの個別の経験的理論に向けられたもので一定の妥当性はあるが、合理的選択理論がうまく説明できる現象がたくさんあることを看過している。後者の批判はいわば合理的選択理論の存在論的なレベルに向けられたもので、個別の経験的な理論は反証可能であるし、十分に科学的であることを示した。これと平行して、若年の非正規雇用・無職の社会階層・社会移動についても予備的に調べた。その結果、若年の非正規雇用・無職は比較的低い階層から多く輩出されており、初職が非正規雇用・無職の場合、30代でも非正規雇用・無職にとどまっている率は、相対的に非常に高い(オッズ比で7.6倍)ことがわかった。また、合理的選択理論の観点からは、性別分業意識の強い女性のほうがそうでない女性よりも非正規雇用・無職になりやすいことが予測された(専業主婦志向が強ければ、常雇で働くよりも非正規雇用・無職で働くほうが合理的だから)が、0次のレベルではごく弱い関連しか見られなかった。おそらく学歴でコントロールすれば消えてしまう程度の関連である。つまり、女性側の合理的選択というわけではないと思われる。
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