本年度は、合理的選択理論の若年の非正規雇用と無業への応用を中心に研究を行った。近年の若年層における非正規雇用と無業の増大に関しては、労働力の供給側(若者)に原因を求める供給側仮説と、労働力の需要側(企業)に原因を求める需要側仮説が考えられる。需要側仮説は、企業が人件費削減のため非正規雇用の比率を増大させてきたことを述べており、合理的選択理論での説明が支配的である。しかし、供給側についてははっきりしないことが多い。 そこでまずは予備的にオーソドックスな社会階層論の手法で非正規雇用と無業の実態を明らかにすることを中心に研究を進めた。父職の本人従業上の地位(正規雇用、非正規雇用、無職など)への効果はあまり大きくないが、本人学歴の効果は顕著である。中学3年生の時の成績がよいほど非正規雇用や無業にはなりにくいが、大学進学率の高い高校の出身者であることは効果がない。また、学校に仲の良い友達のいた者ほど非正規雇用や無業にはなっていないこともわかった。総合的に考えると、偏差値であらわされるような「学力」が非正規雇用・無業になる確率を規定しているのではなく、むしろ、学校文化・社会へうまく適応できない者ほど非正規雇用・無業になりやすいと考えられる。 また、ある種の合理的選択理論からは、未婚女性に限定して考えると、性別分業意識が強い女性ほど、無職や非正規雇用になりやすいことが予測されたが、実際にはそのような傾向は見られなかった。確かに、無職の未婚女性は専業主婦志望が強いが、データの分析結果を総合的に勘案すると、専業主婦志望だから合理的に無職を選んだというよりも、無職だから専業主婦志望が強まったと考えたほうがよいと結論した。
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