本年度は、大きく2つのテーマで研究を行った。一つ目は、これまでの研究調査蓄積のある滋賀県長浜市の都市再生過程をソーシャルキャピタル形成の視点から再構成する作業である。ソーシャルキャピタル形成の視点から滋賀県長浜市の都市再生を再構成すると、都市再生のモデルケースとして注目されているまちづくり活動を、2つの異なったソーシャルキャピタルの蓄積過程と捉える事が可能である。ひとつは、これまで伝統的なまちの担い手層が形成してきたソーシャルキャピタル(既存のSC)であり、他方は、第三セクター『黒壁』を中心として新たに形成されてきたソーシャルキャピタル(新たなSC)である。既存のSCはメンバーが固定化されており、密度が高くクローズ型の特徴を持っているために、既存の問題には効率的に対処できる一方で、新たな課題には対応が遅れる傾向を持っていた。一方、新たなSCは、既存のSCに比べた場合、メンバーは流動的であり、密度が低くオープン型の特徴を持っており、新たな課題に迅速に対処しやすい傾向にあった。加えて、この新たなSCは、これまでの都市再生に関する様々な課題対処において、既存のSCを部分的に取り込むことで、既存の資源を生かしながら新しいSCを蓄積してきた。しかしながら、ここ数年、この流動性・密度が低い・オープン型といった特徴が弱まる傾向があり、諸問題への対処も遅れる傾向にある。 二つめは、この長浜での事例の一般化のために、全国の様々な都市再生の事例との比較を行うことである。そのために、本年度は、早稲田商店会、巣鴨地蔵通り商店街、江東区砂町銀座商店街、麻布十番商店街、大阪の空堀商店街、秋葉原駅前地区、川崎市駅前地区、東京丸の内地区・汐留地区、福井市のまちづくり活動、北上市のまちづくり活動、金沢21世紀美術館および周辺地区などの視察を行った。
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