本研究の目的は、人びとが日本社会の階層状況をどう認知し評価しているのか、またそうした認知や評価が、主に教育を媒介した格差拡大にどのように影響するのかに関して、地域社会(岩手県)の特性を踏まえながら実証的に検討することにある。 平成18年度は、平成16年度に岩手県内の4地域(盛岡地域、県北地域、県南地域、沿岸地域)における15の県立高校の3年生とその保護者を対象に実施した意識調査(高校生1727名、父親1334名、母親1565名が回答。高校生の回収率は91.5%)のデータを分析するとともに、補足的なデータ収集をおこなった。その結果から、次のことが明らかになった。 第1に、学校外教育投資や中学時の成績(自己評価)、所属する高校タイプには親の社会階層が影響し、高校タイプによって学習時間や学習意識、教育アスピレーションが異なる。第2に、教育アスピレーションとフリーター意識や職業観との関連を分析すると、大学・短大進学希望者はフリーターに否定的で職業にやりがいを求めているのに対して、就職希望者は職業を金銭を稼ぐためのものと割り切って考える傾向が見られ、専門学校進学希望者がフリーターに対して最も受容的である。第3に、自由回答欄における記述内容をアフターコードし分析した結果、学歴による不公平感が高い生徒や、社会的成功に対する学歴の影響を認知している生徒ほど、学校や教育への不満を述べる傾向がある。 このように、高校生の進路や将来設計には、出身階層や学歴社会の認知が影響しており、地方においても格差の固定や拡大につながるメカニズムが存在することがたしかめられた。
|