本年度は、本研究で明らかにする3つの仮説のうちの一つである、中国人の日本留学の政策的側面を明らかにするため、まず中国国家図書館において資料収集を行った。そこでは、日本留学のみならず、中国からの海外留学の1980年代からの動向や政策について、かなり詳細な文献や資料を入手することができた。分析の結果、中国人の日本留学は、80年代からの日中間(さらにはアメリカやヨーロッパといった中国人の留学希望地を含む)の政策、経済、社会的ネットワークから形成された「移民システム」の一つとしてのモデルを構築した。さらに2000年以降の新しい日本留学への流れを分析するためにも、中国における若者の日本への関心やイメージについて、日系企業の採用担当者、日本語メディア誌関係者等へ北京市においてヒアリングを行った。これらの調査結果より、「移民システム」の確立により、これから日本留学を希望する「一人っ子政策」後の若者、さらに長期の滞在の後日本から帰国する中国人、リピーターなど、中国から日本への移動をめぐる一様なパターンにとどまらない戦略的な選択肢のひろがりが散見された。 もう一つの仮説である、「永続的ソジョナー」中国人の、家庭生活、子どもの教育、政治参加などの各場面における、新中間層的な生活様式への適応についての研究では、以下の知見が得られている。中国人どうしの夫婦の調査結果から、日本における中国人女性の不就労=「主婦化」は日本適応の結果としてではなく、かれらの強い「帰国志向」からすると、むしろ日本での「仮住まい」の意識を反映した行為といえることが明らかになった。中国への帰国の意思をつねに持ちながら日本での生活を送るうえで、「我慢」や「あきらめ」といった「家族戦略」の一つとしての「主婦化」と捉えるほうが正しいと判断できる。こうした行為は、中国から日本への移民過程にある滞日中国人の「家族戦略」の特徴の一つとして結論づけることができる。
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