(1)中国人の日本留学にみる「国際移民システム」 中国人の日本留学は、1980年代からの日中間(さらには関係諸国も含む)の政策、経済、労働市場的、社会的なネットワークから形成された「国際移民システム」の一つとして把握できる。そこでは、日中間の政策以外の要因も含めて、相互作用とフィードバックが繰り返され、日中間には移民送り出しと受け入れに関する差別的な選別システムが強化される流れが生成されている。日中二国間をこえて、アメリカ、カナダなどの中国人が多く留学する国と比較で選択されており、さらなる「国際移民システム」としての中国人の「日本留学ルート」の形成・拡大につながったと考えられる。 滞日中国人の労働分析からは、従来の「単純労働者/専門職労働者」というとらえ方を越えて、その二つの中間に位置する、ホスト社会における「技能形成型移民」というあらたな概念も提示できる。国から国へと多国籍企業等を「渡り歩き」、欧米社会にそのまま「通用する」文化資本まで兼ね備えた移動者とは異なる、「準専門職移民(semi-professional migrant)」と定義づけることもできるだろう。 (2)トランスナショナルな新中間層の社会的統合 永住資格や日本国籍の取得など日本滞在に対する中国人のプラグマティックともとれる態度がみられるが、一方で言説上の「硬直した」中国人アイデンティティも脆さや矛盾を抱えていることも指摘できる。この「永続的ソジョナー」中国人の重層的アイデンティティの中核をなすものは、「リプリゼンタティブ・エスニシティ(representative ethnicity)」と定義づけることができる。「中国人である」と言い続け、表明することによる「たてまえ」や「論理」を使うことにより、日本と中国どちらの準拠集団に対しても、「納得いく」応答として均衡を保ち、日本での就労や研究、家族の生活や子どもの成長などの現実的な問題と、「中国人であること」のアイデンティティの溝を埋める役目を果たしている。
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