本研究は、国際移動研究の中で留学を契機として来日する中国人の社会的な生活世界を明らかにし、今後も来・滞日の増加が予想される彼らの行動を通して日本社会および国際関係の変容を展望するものである。中国大陸(中華人民共和国)からの留学生として入国した長期滞在者を対象に、留学生と移住労働者としての両側面から、「国際移民システム」(Kritzほか1992)にみる日本留学という移民過程、および「永続的ソジョナー(permanent sojourner)」(Uriely 1994)アイデンティティの観点から、それぞれ考察を行った。 (1)中国人の日本留学にみる「国際移民システム」 中国人の日本留学は、1980年代からの日中間(さらには関係諸国も含む)の政策、経済、労働市場的、社会的なネットワークから形成された「国際移民システム」の一つとして把握されうることがわかった。 (2)「永続的ソジョナー」中国人のアイデンティティ 滞日中国人の準拠集団との関わりと意識を整理すると、以下の5つのタイプが見出せた。(1)日本人学生と差異化の意識(2)職域における「日本人化」あるいは「同調」(3)中国の友人に対するプラス方向とマイナス方向の距離感(4)賃金・昇進についての相対的な不満感(5)観念的な知識としての「欧米社会」(=「理想的な移民社会」)を想像上の準拠フレームとし、再度相対的な不満感を形成 (3)トランスナショナルな新中間層の社会的統合 日本での「永住者」資格の取得や国籍取得などの中国人の行為からすると、日本滞在に対しプラグマティックな態度がみられる。しかしアイデンティティの面では、やや「硬直した」中国人アイデンティティを保持しており、「リプリゼンタティブ・エスニシティ(representative ethnicity)」と定義づけられる。これは「中国人である」と言い続けるという「たてまえ」や「論理」を使うことにより、日本と中国どちらの準拠集団に対しても「納得いく」応答として均衡を保ち、実生活とアイデンティティの溝を埋める役目を果たしていることが明らかになった。
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