コウノトリの野生復帰事業が進む兵庫県但馬地方で、かつてコウノトリと接して生活してきた人々から、「語り」を聞き取る調査を実施してきた。「語り方」を解析して、自然再生のシンボルであるコウノトリは、保護よりも日常生活と結びつき、害鳥、瑞鳥、ただの鳥などと「多元的」に語られ、コウノトリを語ることによって人と自然の日常的な関係性の諸相が紡ぎ出されることが明らかになった。 これは(1)但馬の地域性によるのか、(2)コウノトリという種の特徴によるのか、という問題関心に基づき、野生のコウノトリが数ヶ月間定着した亀岡市、我孫子市、野生復帰を目指している佐渡市のトキに関する聞き取り調査を実施した。 かかわりの歴史がない亀岡で、珍しい鳥という非日常として語られた。他方、「亀岡コウノトリの会」が発足し「コウノトリが教えてくれた」と非日常を通して地域の日常を見直す「地域再発見の語り」もみられた。 我孫子市では、鳥の博物館と友の会がモニタリングを行っていた。100年以上前にコウノトリとのかかわりが切れた当地でも、珍しい鳥として語られた。バードウォッチングという「観察的語り」であった。 かかわりの歴史がない地域では、日常生活と結びついて多元的に語られることはなく、人と自然の関係性が紡ぎ出されることもなかった。これは、人間の生活と重ならない越冬期の飛来であったことを考慮する必要がある。注目したいのは、コウノトリが外見や希少性から非日常性を帯びている一方で、生活域が人のそれと重なるため、地域再発見の語りのように、日常を問い直させるポテンシャルをもった生物であることだ。 佐渡市では、佐渡トキ保護センター、新潟大学トキ・プロジェクト、NPOなどが活動している。トキは棚田などを主な生息域とするため、かかわりが相対的に薄く、かつてトキと接しながら生活してきた人々が少ない。他方、現在、様々なNPOがトキに関する活動を行っており、科学や島づくりなどの視点から、トキが語られている。 かかわりの歴史性、行政の政策、地域の社会構造などによって、同じ種でも「語り方」が異なること、野生復帰や自然再生という同じ価値が付与されても、生息域の違いやかかわりの歴史性などによって、「語り方」が異なることが明らかになった。さらに比較研究を進めることが必要である。
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