社会福祉現場において職業資格制度が導入されたことによって、いわゆる「タテ型」の労働市場構造の中に「ヨコ型」の労働市場が形成されることで、どのようなコンフリクトが生じ、そこからどのような適応の形態が生じてくるか、これをフィールドワークを通じて明らかにしていくのが本研究の目的である。研究初年度(平成16年度)は主として経営者もしくは雇用者を中心にインタビューを行ったのに対し、本年度(平成17年度)は従業者の立場を重視したインタビューと調査を行った。 本年度行った調査研究の内容は、まず社会福祉現場における有資格労働者として、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士の3者をとりあげ、このうち社会福祉士と精神保健福祉士へのインタビューとアンケート調査を行った。介護福祉士への調査実施は、スケジュールの調整が十分つかなかったため、次年度に持ち越しとなった。社会福祉士へのインタビューの結果明らかになった点は、社会福祉士という職業資格が必ずしも労働市場領域の確立をもたらしていないという点にある。つまり職業資格を取得したとしても、それが特定の職業領域での就業機会を増大させたとか経済的地位の改善につながったとは認知されていない。特に社会福祉士の主業務である相談援助を担う中核的職域であるはずの公的社会福祉機関においては、職業資格の保有が人事異動や業績評価の基準としてはまったくといっていいほど機能しておらず、「タテ型」労働市場を特徴付ける新卒一括採用とローテーション制度という従来の制度が維持されている。それゆえ、公的機関における社会福祉士という職業資格の浸透は、研究当初の予想よりもはるかに進んでいない。精神保健福祉士についても同様な傾向がみられるが、精神保健福祉士の場合には、その原因はむしろ労働市場のタイトさに求められる。つまり、わが国の医療保険制度の中では、点数として加算されない医療ソーシャルワーカー・精神科ソーシャルワーカーの雇用数は極めて限定されており、資格制度導入以前においても高学歴や専門的教育を要求する傾向が強かった。この傾向は資格制度の確立によっても変わっていない。つまり社会福祉士・精神保健福祉士の両者に関して、職業資格制度の導入が労働市場領域の確立につながらないのは、社会福祉という分野の特性として、職業的技能に対する需要・供給の関係とは別個に雇用を規定するシステムが存在し、そのシステムそのものが職業資格制度の導入によっても変更されていない点に原因が求められる。市場原理の導入を進めているとされる高齢者介護分野における介護福祉士に関しては、次年度の調査課題とする。
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