研究概要 |
平成16年度は,主として本研究課題である非市場労働(家事,育児・介護,自給作物生産,地域活動など)を研究対象とする諸立場の議論を取りあげ,その学説史的な比較検討を行った。年度の前半には,家庭という私的領域の中で女性により担われることが多く,その負担が可視化されにくい非市場労働が,どのようにして社会的に有用な「労働」として人々に認識されるようになってきたのか,労働形態や生活時間の使い方をめぐる男女比較を軸としたジェンダー統計が整備される歴史過程を追いながら,明らかにした。その上で,こうしたジェンダー統計の発展を通して,非市場労働が経済的・政治的にどう位置づけられるようになったかという点について,理論的検討を加えた。その成果は,後段に記す論文「開発経済における非市場労働の位置づけ:ジェンダー統計整備の歩みから」にまとめられている。 次いで年度の後半には,1960年代末から今日に至るまで,マルクス主義フェミニズムの立場を中心に展開された非市場労働をめぐる論争史を振り返り,各立場の特質について批判的検討を加えた。中でも特に,非市場労働の重要な部分を占めるケアワーク(育児・介護等)を商品生産労働とは性質が異なるもの,すなわち同じ労働として比較することが出来ないものと捉え,市場経済優先社会からケアワークという人間生命の育成に直接関与する活動の社会的意義を認め合う社会へと方向転換することの重要性を説くケアワーク特殊論,またはそうした立場に立つ福祉国家比較論に焦点を当て,その意義と問題点を論じた。その成果は,論文「マルクス主義フェミニズムにおける非市場労働:ケアワーク特殊論の批判的検討を中心に」として,来年度中に発表を予定している。
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