平成17年度は、本研究課題である非市場労働(家事、育児・介護、自給作物生産、地域活動など)を研究対象とする諸立場の中からマルクス主義フェミニズム(以下、MFと略記)を中心に取り上げ、その学説史的検討を行った。特に近年、非市場労働の中でも市場化されにくいケアワーク(育児・介護)に内包される「協調と再生産」という価値観を「競争と拡大」を基礎とする資本主義市場経済への対抗原理として重視し、男性の育児・介護参加の支援等、男女が共にケアワークに従事し易い環境を整備することを通して、非市場労働における女性の負担軽減と男性に偏った市場労働負担、さらには市場労働における女性の劣位などを改善していこうという考え方が、先進国のMFを中心に強くなっている。本研究ではこうした立場をケアワーク特殊論と呼び、批判的検討を行った。 ケアワークを含む非市場労働は、その存在自体が市場労働の貨幣評価(賃金)や生産された商品の価格に潜在的な影饗を与える可能性を持っている。そして、そうした歪みを否定しきれない賃金や生産物価格を前提として、市場経済や、そこからの再分配を前提とした国家の社会保障制度は成り立っている。ならば、市場と非市場の両領域におけるジェンダー分業の公平化という目的は、それを困難にしている市場/非市場両領域の構造的連関を解きほぐすこと無しには達成し得ないであろう。しかし、ケアワークと市場労働とを異なる原理に基づく活動と位置づけ、二元論的に捉えるケアワーク特殊論には、こうした連関を論じる理論装置が欠落している。MFの中から、なぜこうした議論が台頭したのか。また、ケアワーク特殊論の問題点を乗り越える理論展開は可能だろうか。本研究はこうした問題意識に基づき、1960年代末に始まる家事労働論争を詳細に検討した。その成果は、論文「ケアワーク特殊論の批判的検討(仮題)」として、近日中に発表を予定している。
|