本年度は、三ヵ年の研究計画の一年目であり、基礎的な作業を中心に行った。「勝田守一・宮原誠一の教育思想とJ.Deweyの<学校-社会>論・教育論」についてであるが、本年度は、勝田・宮原の著作集に収められた論考を中心に収集、検討を行った。いまだ検討作業の中途段階である。次に、「大田尭の教育・地域福祉論とE・Krieckの「民族教育学」」についてであるが、今年度は、大田の地域教育論の検討およびクリークの教育哲学についての先行研究を検討した。そこで明らかになったのは、大田の<地域>観の変化であった。初期の大田の地域教育論おいて「地域」というものは、彼の近代主義的な社会観のもと、克服すべき前近代的な残滓を体現したものであり、極めて否定的なものであった。その後、大田は柳田民俗学との出会いのなかで、習俗を肯定的に評価しつつ、土着的な習俗とかかわりの無い(学校)教育のあり方を批判し、それまでとは異なる「地域と教育」のあり方を考察することになる。そして、このような習俗-地域の積極的な評価のなかでクリークの教育哲学がさりげなく言及されるのである。大田は、後期において、いわゆる大思想家に言及することがそう多くないので、この言及には大きく注目しなければならないが、大田の後期の地域教育論とクリーク教育哲学の親近性の考察を次年度には本格的に行いたい。最後に、「ドイツ社会的教育学の社会観と社会福祉・教育論」である。本年度は、社会的教育学以前に、社会という概念を発見したA・エッティンゲンの道徳統計論の検討を行った。エッティンゲンはルター派の神学者であったが、彼は神学的世界観に立ちつつ、また、ドイツ観念論の諸概念を脱構築しながら、観念論においては問題化されることのなかった「社会」を概念的に発明した。こうして、統計的に表象されるような、人間の行為に影響を与える審級としての「社会」が成立したのであった。
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