人間社会を特徴づける重要な要素は、直接互恵性が存在しなくても人々が一方的に資源を提供し合うという一般交換の存在である。一般交換は、「情けは人のためならず」という諺が示すように、資源を与えた相手以外の第三者から間接的に返報されることにより成立していると考えられる。一般交換に関する研究は90年代末にようやく端緒についたばかりであり、これまでは社会心理学などの実験研究を重視する分野と進化生物学や人類学などの数理モデルや理論研究を重視する分野とで、お互いの交流なしに独立して研究が進められてきた。本研究は、このような二つの研究の流れを統合し、新たな発展可能性を探ることを目的とする。 16年度は、適応論的分析として、一般交換を成立させる戦略の持つ特徴を明らかにするための数理解析とコンピュータ・シミュレーションを行った。その結果、「良い」人に提供した相手には提供し、「良い」人に提供しなかった相手及び「悪い」人に提供した相手には提供しない、という特徴を持つ戦略が一般交換の成立・維持に必要であることが明らかにされた。この成果は複数の国内・国際学会で発表された。 更に、来年度の実験室実験のための準備として、上述の適応論的分析から導き出された戦略と合致する行動を実際に人々が採用するのかどうかを予備的に検討する研究を行った。具体的には、一般交換状況で人々が他者の様々な行動パターンに対してどのような印象を抱き、どのように行動するのかを探る場面想定法質問紙実験を行った。その結果、人々は「悪い」人に提供した相手に対して、「お人好し」・「気前がよい」といった側面では好印象を抱くが、「集団の秩序を守らない困った人間だ」と悪印象を強く抱くこと、また資源提供意図も「良い」人に提供した人に対してよりも低いことが明らかにされた。これは上述の理論的に導き出された戦略と一貫している。この成果は複数の国内学会で発表された。
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