研究概要 |
加害行動や迷惑行動の規定因を明らかにするために,2004年7月に質問紙調査を行った。当の調査においては,各調査参加者の諸パーソナリティ(攻撃性,特性不安,形式主義,情緒的共感,視点取得)と,加害行動に関する諸認知(自分に関する深刻さ認知,他者に対する深刻さ認知,生起確率認知,効果性認知,コスト認知,実行能力認知,実行者割合認知,責任認知,規範認知),加害行動を実行してきた程度,今後加害行動を抑制しようとする意図(加害行動抑制意図)を測定した。次にこの調査で得られたデータについて,2つの分析を行った。1つ目は,諸パーソナリティが加害行動経験に与える影響に関する分析である。この分析の結果,攻撃性が高いほど,また形式主義的傾向が低いほど加害行動が高いことが明らかとなった。ただし,これらの影響力はともにさほど大きいものではなく,パーソナリティが加害行動に与える影響は小さいということが示唆された。2つ目は,諸認知が加害行動抑制意図に及ぼす影響に関する,集合的防護動機モデルに基づいた分析である。この分析の結果,生起確率認知,実行能力認知,責任認知が高いほど,またコスト認知が低いほど加害行動抑制意図が大きいことが明らかとなった。その他の認知は影響力を示さなかった。この事実は,加害行動抑制意図の規定因として思いつきがちな「他者への深刻さ認知」が,実際はあまり効果がなく,むしろコスト認知などのような従来あまり省みられなかった要因の方が重要であることを示している。上記2つの分析によって,加害行動の抑制意図をとりまく輪郭がある程度明らかになったといえるだろう。相関的な分析手法を用いたことによって,多くの変数を同時に扱うことが可能となり,幅広い知見を得ることができた。しかしながら相関的な研究は,説明変数と従属変数の因果的な関係性を厳密には保障していない。今後は,実験を行ってその点を確認する必要があるだろう。
|