今年度は1990年代に来日したインドネシア政府派遣留学生を対象とし、関連する基礎資料収集と関連諸機関からのヒアリング、面接対象者へのキャリア形成を中心としたインテンシブな面接調査を実施した。基礎資料の中でも特に統計資料については、インドネシア人元日本政府派遣留学生の明確な統計資料は入手困難状況であり、元留学生の留学後の消息が不明の者も少なくない。そこで、関係機関(ASIASEED、JICAなど)や消息がわかっている元留学生からの情報をもとに名簿を作成した。また留学プログラムの流れや手続きについては既存の文献等で大枠は把握できているが、プログラムの具体的な内容(留学生の選抜手続き・基準やオリエンテーションの内容など)についての詳細な資料をできれば入手したいと考えている。 対象者への調査は、対象者約60名のうち16名と会い、9名に面接調査を実施した。政府派遣留学生は留学終了後、母国の政府関係機関に勤務することが義務付けられているが、今回面接に協力してくれた対象者は政府機関勤務3名、日系民間企業勤務4名、日本の大学に勤務2名であった。詳細な分析はこれからであるが、このようなキャリア選択の背景には、(1)留学で得た知識・技術を活かす場の模索、(2)海外留学というキャリアへの評価のギャップ、(3)母国での組織運営システムや勤務体制への適応困難、などが考えられる。不満をもちながらも既存のキャリア形成の進路に従って生きていく者と、大きく進路を方向転換し自分なりの新たなキャリア形成を試みる者との間には、自分のキャリアと周囲からの期待に対する対応についての考え方にかなりの違いがあるようである。今回の調査では、具体的な職業・職務や学歴・家族背景等といった客観的な事項が主な調査内容であったが、次年度はキャリアに対する個々人の考えに焦点を当て、集中的にみていきたいと考えている。
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