本研究では、メッセージの認知バイアスが生じる条件を実験的に明らかにし、どのような伝達機能を備えたメディアが協調的相互作用を生じやすいのかを検討するものである。本年度は、これまでの研究では葛藤のある状況での相互作用において非言語メッセージの好意性認知バイアスが見出されたが、非言語メッセージの認知バイアスがどのような状況でも生じるのかどうかを再検討した。まず、メディアにおいて行う相互作用のシナリオを作成した。佐々木・大渕(2002)の実験では、被験者は会話相手である実験協力者から援助を求められるが、援助を行うと被験者は不利益をこうむるという葛藤のあるシナリオであった。本研究では、こうした利害が不一致である状況と、被験者と実験協力者が共同作業を行う利害が一致する状況のシナリオを設定した。予備調査を行った上でシナリオを作成し、予備実験を行ってこれら二つのシナリオを評定した。評定値を分析して両者ともに同程度のリアリティと両者の間で利害の一致度に有意差が見られることを確認する。更に、音声チャネルにおいても映像チャネルにおいても非言語メッセージの協調性の水準を保てるように実験協力者を訓練した。本年度は、高性能のマイクとオーディオミキサー、音声分配器、デジタルデッキを備えて被験者の音声会話の反応を測定した。実験協力者(被験者の会話相手)の非言語メッセージの好意性を実験要因とし、被験者は敵意非言語条件あるいは好意非言語条件において実験協力者と会話を行った。その結果、実験協力者が異なる場合であっても、これまで見出されたものと同様に非言語メッセージの意図帰属においてネガティビティ・バイアスが生じていることが示された。また、意図帰属が好意的であるほど被験者の経験する感情は強調的であった。本年度で確認されだ結果をもとに、来年度以降は音声会話だけでなくTV電話会話を行い、どのような条件で非言語メッセージの認知バイアスが生じるのかを明らかにする。
|