平成17年度は、規範認知バイアスの実験を行った。二次的ジレンマ問題があるにも関わらず規範が機能する理由としては、規範の実効性が不十分でも、潜在的逸脱者がその実効性を過大視し、逸脱行為を抑制することが考えられる。そこで、この実験では、同調圧力場面を実験室内に設定し、規範支持者(多数意見者)が規範逸脱者(少数意見者)に対する制裁的行為をどれだけ実施するか、逸脱者は制裁行為の程度をどのくらいに予測するかを検討した。その結果、規範支持者は逸脱者に対して制裁を加えるが、その程度は逸脱者が怖れているよりも小さいことが示された。この結果から、逸脱者は規範の過大視バイアスを持っており、これが規範への圧力を高めていることが示唆された。 さらにAxelrod(1986)のメタ規範ゲームをベースに制度的連動下での協力行動の進化シミュレーションを実施した。この研究では、感情的連動により二次的ジレンマが回避できることを検証する第1シミュレーション、感情的連動が進化し得ないことを追試する第2シミュレーション、制度的連動(1次と2次の協力が分離不能な状況)では二次的ジレンマを回避でき、社会的ジレンマが解決されることを示す第3シミュレーションを行い、制度的連動により社会的ジレンマが解決され得ることが示された。 この他、学生サンプルを用いて、身近な集団(サークルやゼミ)のリーダーとフォロワーの関係に関する予備的調査を行った。調査の結果、集団としての達成目標が明確な組織ほど、リーダーの一次と二次の制裁行使傾向がともに高く、フォロワーもそうしたリーダーを支持する傾向のあることが認められた。この結果は、現実の集団においても、フォロワーが連動型リーダーへ権力委託を行うことで、社会的ジレンマの解決がはかられていることを示唆している。
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