平成17年度は、集団のメンバーからリーダーへ権力が委託されることで社会的ジレンマが解決されることを検証するコンピュータ・シミュレーションを行った。シミュレーション・プログラムは、16年度に開発した制度的連動のシミュレーション・プログラムをもとに開発した。今回のシミュレーションで仮定されているのは、複数の集団が社会的ジレンマに直面しており、それらの集団には非協力者への制裁代行をするリーダーが1人いるという状況である。集団の各メンバーは集団への協力傾向とリーダーへのサポート傾向(利得の一部をリーダーに渡す傾向)のそれぞれの遺伝子を持っており、これにしたがって行動が決定されている。また各集団のリーダーは、コストを払って非協力メンバーを罰する傾向と、同じくコストを払って非サポートメンバーを罰する傾向の遺伝子を持っており、制裁の行使・非行使はこれらの遺伝子にしたがって決定されている。シミュレーションは、メンバーによる協力・非協力およびサポート・非サポートの決定、さらにリーダーによる非協力者および非サポート者への制裁・非制裁の決定を1試行、10試行を1世代とし、10000世代を行った。集団のメンバーが次世代に残せる子孫の数はその世代での利得に比例して決められた。リーダーが地位を保つかどうかは、100世代ごとに直前の1世代の、リーダー自身の利得と集団全体の合計利得のそれぞれの相対量に応じて決められた。すなわち、自己利得が相対的に少ないリーダーは辞職し、集団利得が相対的に少ないリーダーは解任される状況といえる。このシミュレーションの結果、非協力者と非サポート者の両方を罰するリーダーが進化・増加し、同時に協力傾向やサポート傾向の高いメンバーも進化することが明らかになった。これは、集団内でメンバーの協力傾向とリーダーの制裁傾向が共進化することを示唆している。
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