平成18年度には、17年度に開発したリーダー制裁行動進化シミュレーションにおけるリーダー進化replicator dynamicsのアルゴリズムを改善した。このシミュレーションでは、社会的ジレンマに直面している各集団に成員への制裁権限を担うリーダーが1人いて、それぞれの持つ行動傾向に応じ、非協力成員やリーダーを支援しない成員を罰するかどうかを決定する状況を想定している。このリーダーのreplicator dynamicsは、集団成員の支援からなる「リーダー個人の利得」と「集団成員の合計利得」という2つの利得に基づいている。前者はリーダー自ら辞任する場合、後者は解任される場合のリーダー交替にそれぞれ対応する。17年度のプログラムでは、二つの利得のどちらが基準になるかが確率的に選ばれていた。しかし現実状況では、どちら一方でも低い場合、リーダーは交替する。そこでこの部分のアルゴリズムを変更し、二つの利得の積を基準とするreplicator dynamicsを新たに開発した。 さらに、リーダー支援行動の検証実験を行った。現実の社会的ジレンマが制裁を担うリーダーの存在によって解決されているならば、1)成員各人が直接非協力者を罰する状況と、2)リーダーが非協力者を罰しそのリーダーを成員が支援する状況では、成員の負担するコストが同じでも、2)の状況の方がコスト負担を厭わないことが予想される。この仮説を検証する実験室実験をおこなったところ、1)と2)の状況間で成員の平均コスト負担に有意な差は認められず、仮説は支持されなかった。この結果から、成員からリーダーへの支援を引き出すには、リーダーが制裁権限を担うだけでは不十分で、リーダー選出手続きの公正性や、リーダーの制裁行使意図の妥当性などが重要であることが示唆された。
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