ムードの操作および自尊感情の低下の脅威を操作した実験を実施し、行動レベルにおいて、実験的に生じさせた否定的ムードおよび低下または低下の脅威に曝された自尊感情と、後に行う援助の特徴との組み合わせによる援助行動のムード改善および自尊感情改善(または維持)のための道具性を検討した。 女子大学生56名を被験者とし、知的能力に関連していると教示したパズル課題で、制限時間内にパズルが完成できない「私的失敗条件」か、他の教員が実験で使用している数値の書かれたカードをばらまいてしまう「加害失敗条件」、または感情操作をされない「統制条件」のいずれかに割り当てた(独立変数)。この後に、実験室に荷物を取りに来た終始無言の人物(実験補助者女性)がコンタクトレンズを落としたふりをした。被験者が椅子から立ち上がり、コンタクトレンズを一緒に探す援助行動をとるか否かと援助までの反応潜時および援助後の感情改善度(従属変数)を測定した。 ムード改善や自尊感情回復のための道具性が高いと予測される「加害失敗条件」が、「私的失敗条件」と「統制条件」よりも援助率が高く、援助までの反応潜時が短く、援助後の感情改善効果も高いと予測したが、3条件間の援助率・反応潜時および援助後の感情改善度ともに有意差は認められなかった。しかし、数量化I類による分析結果から、ムードの悪化よりも自尊感情の低下の方が援助の生起への影響力が大きい事実が示された。また、「私的失敗条件」よりも「加害失敗条件」の方が自尊感情の低下が大きい場合に援助率が高い傾向が示唆された。さらに、援助者は情動的共感性尺度得点のうち、「感情的被影響性」の得点が非援助者よりも低いことも明らかになった。
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